天狗連新聞大会に何らかの関心があって、この名前を知らない者はモグリである。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの新聞『文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)』。今回の「天流」ではその記者である射命丸文(しゃめいまる あや)氏に話を聞くことができた。
――よろしくお願いします。そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。
射命丸:あやややや。取材するのには慣れてますけどされることはあまりなくて(笑)。いや、よろしくお願いします。
――はしゃいでらっしゃいますね。
射命丸:やっぱり「天流」はずっと読んでましたから。それに自分が載るっていうのはけっこう大きな出来事で。もうこのことを記事にしたいくらいです。
――こちらがちゃんと記事にするので大丈夫ですよ(笑)。いきなりですが、射命丸さんが新聞を書かれるきっかけはなんだったんですか?
射命丸:元々文章を読むことが大好きで。活字中毒って言ってもいいくらいで、もうそれこそ是非曲直庁の社内報から地獄の鬼の記録書みたいなものまで手当たり次第入手しては読んでいた時期があったんです。そんな時、うーん、ちょっと言い方は悪いですけど、あんまり書くことが好きではないひとが書いたんだなって文章を見かけるわけです。仕事でいやいや書いてるんだろうな、みたいな。本や新聞という形を通してもそれが伝わってくることがだんだん許せなくなってきて。バレてるぞっていう。
――耳が痛い話です。
射命丸:私自身読むことは好きだったし、書くことも苦とは思ったことがなかったので「これくらいなら私でも書けるんじゃないか」って……。もちろんそう簡単に書けるものではなかったんですけど、書きはじめるきっかけというとそういう流れですね。もうホントに昔の話ですし、一番最初に書いた新聞なんてひどい出来でもうどっかやっちゃいましたけど。
――実はこちらにその、射命丸さんが実際に書かれたはじめての新聞が……
射命丸:えっ!?
――あったらいいなーと。どっかやっちゃったんですね。
射命丸:……本気で騙されました。わーこの流れ、「天流」で読んだことある(笑)!
――『文々。新聞(以下『文々。』)』と言えば過激な内容だけではなく、様々な考察ができる部分も評価を得られていると思いますが。
射命丸:どうなんでしょう?書いている本人だと段々どこがウケているのかがわからなくなってくるので……。「過激な内容」も「考察ができる部分」も元となるネタ次第なところはあるんじゃないかなとは思いますけど。火のないところに煙を立たせてるわけではないですし、小さい火種をいかにして大きく燃やせられるかっていうか。
――起こったことをありのまま伝えるわけではないと。
射命丸:それだとつまらないじゃないですか。それはまた別の話で、そもそも「事実」はひとが持つ偏見の数だけあって、それはぜったい「真実」ではないんですから。いかによりおもしろい「事実」を作って興味を持ってもらえるかというのが勝負です。評価を得られているというのならそこが大きいかなと思います。そういう考えを持っている大会参加者は多い方ではないので。
――記事にされた側が、さらに炎上してしまうことについてはどうお考えですか?
射命丸:対岸の火事です(笑)。もちろん、よっぽど誰かを傷つけるようなことは書きませんよ。そんな内容だと常に評価を得続けることはむずかしいと思います。でも、それを言ったらあなたたちも散々煽ってるじゃないですか。「天狗連新報」で特集組んだりして!
――火の粉が飛んできた(笑)
射命丸:そもそも票数を公開した番付形式で「文化啓蒙」って、ムリがありませんか。
――ノーコメントとさせていただきます。
射命丸:(笑)
――話を戻しまして……、個人的には『文々。』は速報性がポイントだと思っています。事件や異変をいち早く察知し、それに尾ひれをつけて拡散する。あまり解決へは導かないですが。
射命丸:解決するのは私の仕事ではないので。情報の速度がおもしろさに直結してしまう部分はあると思うので、速報性は重要だと思っています。何が起こってもすぐに号外が出せるよう、普段からおもしろそうなことを探す習慣をつけています。
――「満月の怪物事件(※)」の記事はお見事でした。『文々。』の独占スクープだったわけですから。
(※129季。満月の夜に人間の里で起こった連続猟奇殺人事件。解決済み。書籍「嘘より真っ赤なしあわせの国」に詳しい)
射命丸:ありがとうございます。噂が広がりすぎて緘口令を敷くこともできないって、あとで里の自警団の方に散々怒られて。さすがにちょっと反省しましたけど。
――でも、結局?対岸の?
射命丸:火事です。それずるい(笑)
――対抗新聞(スポイラー)についてお聞きしたいのですが。やっぱり『鞍馬諧報(くらまかいほう、以下『鞍馬』)』でしょうか?ここ最近の「大天狗落とし」……、『文々。』の猛追撃は運営側としてもたいへん注目していました。
射命丸:『鞍馬』さんはそれこそずっと上位常連ですし、もちろん目指すところとして意識はしていますよ。それで記事を調整しようとかは考えてないですけど。
――あちらは有ること無いこと大げさに書くスタンスですからね。インパクトのみ最重要視しているというか。頭使わない層を総取りという感じで。
射命丸:なんかずいぶんな物言いですけど大丈夫です?立場的に。
――『鞍馬』さんにインタビューする時は『鞍馬』さん側につきますから大丈夫です。
射命丸:バランス取れてますね。
――とある筋からの情報によると、射命丸さんは『鞍馬』には投票をしていないとか。参加者も投票できるシステムですから、射命丸さんの一票がどこへ行っているのかというのが運営でも話題になってまして。
射命丸:あやややや、それもバレてるんだ。……こんな機会だから言いますけど、そもそもどこにも票を入れてないです。
――投票してないんですか。それは予想外でした。ライバルはいないということですか?それとも例えば、『鞍馬』がいいと思っても、投票しないことで一票分差が縮まるという思いから?
射命丸:……。
――射命丸さん。
射命丸:……。
――対岸の?
射命丸:火事。それやっぱりずるい(笑)。……正直おっしゃられたところがないとは言えないです。というかこちらから聞きたいんですけど、すごく面白いと思ったり、人気があったりすると、逆に見る気なくなったり、距離開けたりしちゃいませんか?
――とてもよく分かります。シャクです。
射命丸:ですよね!あーよかった、自分だけじゃなかった。まぁ結局それも嫉妬なんですけど。すごいと思えば思うほど票を入れることに抵抗してしまって、自分って小さいやつだなーと落ち込むこともあります。といっても『鞍馬』さんに対してではないんですけど。
――それも予想外でした。
射命丸:『鞍馬』さんも尊敬してますよもちろん。でも、……124季だったかな。星蓮船の異変が起きた年。その年の大会に出てた、とある新聞の記事がすごくよくて。ふだんどんなによくても「よかった」なんて言わないのに、思わず伝えてしまって……。それくらい私の中でインパクトがありました。対抗新聞という意味ではそれが、私の中での基準だし目標です。あまり上位には入ってないみたいなんですけど、ホントすごいんですよ!……でも悔しくて、投票しちゃうと負けを認めたことになっちゃう、いやそもそも負けってなんだ?みたいな。世間よ気づかないでくれ、だけどいい加減早く気づけよ!っていうジレンマです。
――今も参加されてる新聞ですよね?
射命丸:そうですね。この間けっこうな事件を独占スクープしていて話題になったんですけど、これまた嬉しさ半分悔しさ半分で(笑)
――ズバリ、この場でライバル宣言してみたらどうですか?
射命丸:別にバレるのがイヤってわけではないのでいいんですけど……。……(編集注:射命丸氏は小さく「カ」と発音した)。あーごめんなさい、やっぱりちょっと言えないです。私も向こうもなんかギクシャクしちゃいそう。「天流」も読んでるとは思うんで、エピソード話した時点でバレバレかもしれないですけど。
――その記者にだけ伝わるエールってことですね。
――順風満帆に見える『文々。』さんにも、今までスランプや挫折などはあったんですか?
射命丸:ありましたよ、というか今もあります。そんなのしょっちゅうです。外にそれを見せるか見せないかなだけで、結局みんな死にもの狂いだと思いますよ。
――飄々としている射命丸さんからは想像できません。それを外に見せない姿が強いと言いますか、カッコいいと思うんですが。
射命丸:ありがとうございます。でも私的にはまったくの逆で。外に出せる相手がいないってだけなんです。だからスランプとか挫折がないって思われちゃうだけで。抱え込みすぎて心が折れそうになることはもちろんあるわけで、そんな時に自分の鬱屈を外に出して、受け入れてくれる相手がいる方がうらやましいし、強いと思います。新聞を書いて、読者から声をもらってそれを励みに、なんてサイクルそうそう回るもんじゃないですし。いつもギリギリですよ。……やっぱテンション上がってるのかな、いつもよりぶっちゃけてる気がする(笑)
――「だけど結局『文々。』は上位常連だからそんなこと言えるんだ」という意見も出る気がしますがどうでしょうか?『文々。』はサイクルが回っている立場だから悠長なことが言えるわけで。
射命丸:あー……。痛いところ突きますねえ……。んー……。……。
――射命丸さん。
射命丸:……対岸の火事、じゃないんですよねこればっかりは。今はたまたま目に留めてもらえているけど、この状態がいつまで続くかなんて分からないですもん。自分で会心と思った記事が、見向きもされないまま道でぐちゃぐちゃに踏まれてたってこともあります。取材をしてひどい扱いを受けたことも一度や二度じゃないですし。そのくせ大手新聞に対してはコロっと態度を変えてヘラヘラして……。知名度がないとそういうことは多くなってしまうことは身をもって体験していますし。
――知名度がないことは悪いことだと思いますか。
射命丸:「知名度がないことは悪いこと」だと思うことが悪いことだと思います。ややこしい言い方ですけど。それに囚われちゃうとやっぱりおかしくなっちゃうから。……だけどもし、少しでも多くのひとに読んでもらいたいと思ってしまって、それでも思うように結果が伴わないことがあっても、こればっかりはもうこらえて乗り越えるしかないと思います。つらくても目をそらすなり耳をふさぐなりして、誰も読んでくれなくてもひたすら書き続けるしかないんです。
――読んでくれる保障も希望もなくても。
射命丸:でも書くんです。反応がなくて死にたくなっても、応援してくれてると思っていたら急に手のひら返されても、これって書いている意味あるのかなって思ってしまっても、それをぜんぶ押し殺して書き続けるしかないんです。記事の中に、みとめてくれーって気持ちを祈るみたいに隠しながら。これはホントそうするしか方法がない。もちろんおもしろいものにするために最善を尽くす努力は必要ですけど。
――カッコいい考え方です。
射命丸:でもそれって実はみんなやってることなんですよ。外に見せるか見せないかの話なだけで。結局みんなカッコいい。だからそんなひとがたくさん集まる新聞大会が好きなのかも。
――そうおっしゃってもらえると運営冥利に尽きます。最後に、今後書こうと思っている記事について何か構想はありますか?
射命丸:幻想郷でどんな事件が起こるか次第なところがあるので、前もっての構想っていうのは全然……。ただ、月の都についての記事は近々書こうと思っています。冬までに書けるかなあ。それと山窩(サンカ)と呼ばれる隠れ里の記事についてもいずれ書けたらなと。まだ情報収集の段階なんですけど。あとは……
――けっこうあるじゃないですか。
射命丸:あやややや、恥ずかしい(笑)
(天狗連新報 第131季・晩秋号より)
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